自宅に着く頃にはもう日が沈み、寒さも増していた。 イチゴとかプリンだとかを一緒に渡すと何かと面倒そうなので、玄関で 「緒美ー!キャベツここ置いとくからなー!」 と言い捨ててFDに戻る。 渉と待ち合わせた時間より大分先に着きそうだが、そのまま間瀬へと向かった。 駐車場にFDを停めて窓を開け、タバコに火を付けると、 煙だか、ため息だかわからないものを深く吐いた。 間瀬峠。 雨の中、恭子のFDで眠ったところだ。 きっとあの空間を、失った 『そんなつもりじゃないから』 ・・・友達以上になるつもりは、ない って、そうだよな前にオレが恭子をふったのだから。 あれから半年になる。 彼氏はいなくとも、好きな人くらいてもおかしくないよな・・・ いつの日かあの夢で見たようなこと、言われるかも知れない 『でもね、今はもう大丈夫。彼氏のことで頭いっぱいだから』 『車に詳しい人だから、もう啓介さんに迷惑かけることもないね』 ああそうだ・・・どうしようもないアホ 波のように寄せては、かえす。 満ちた潮が足下の砂も奪いながら、引いてゆくようだ。 少しずつ 少しずつ・・・。 一歩 あゆみ寄れば、二歩遠くに行ってしまう そんな気がした 渉がFDに近づいてくるなり 「キャベツがいる」 と、リアシートを見て言った。 急いで降ろしたものだから、一つ残してしまったらしい。 「え?ああ、もらう?」 「もらおうか」 即答してキャベツを受け取り、「あー、さみぃ」とFDに乗り込む。 「今日、恭子と会ったろ」 唐突に言い出したかと思えば 「オレも昼、キャベツもらった」 あっさりと言ってのける。 「・・・・・・・・・なら、もらうなよ」 「がっかりした?」 横でニヤリと笑う。 「何が」 と、はね除けたつもりだが 「わかりやすい奴ー」と、こっちを見ている。 ムッとしながら啓介が気付いた。 「って、お前恭子と連絡取れるんじゃねーか」 「ああ、悪い。試した。本気なのかと思って」 ・・・あっけらかんと言いすぎだろ。 「本気って・・・」 「番号はお前がDを理由に恭子をふった頃から一応知ってる」 「・・・・・・」 渉はどこまで知っているのだろう。 窓に肘をのせ、ほおづえをついた姿勢で外を眺めるフリをする。 「ま、理由がお前らしいけどさ。 けど、それがあったからこそこうして結果も出して、 次の足がかりもちゃんとつかんだ。 本当にすげーよな、って思う」 「じゃあ今は?」 「今?」 「Dが終った今、どうして恭子に会うの」 「「余計な御世話だろ」」 啓介と渉の声がだぶる。 くそ、と小さく啓介が吐き捨てるように言ったが、渉はおかまいなしに続ける。 「だから、お前に振られた時の恭子を知ってるんだって。 けど再会したあの日まで、お前の口から恭子の名前が出てきたことないから、気まぐれじゃなくて本気なのかどうか聞いてるんだ」 真顔で啓介を見て、もう一度問う 「本気なの?」 「本気じゃなかったら、あのときふったりしねぇよ」 月日は流れても、自分だけあの赤城での別れから動いていない。 恭子に会う度にあの感情が戻ってきたとしても、あいつはもう、別の方向を向いて歩いている。 それを望んで別れを告げたはずなのに。 歩き出せたのも あの笑顔を取り戻しているのも 泣いている恭子を支えてくれたであろう友達や、 今現在お節介焼いてる渉とかのおかげなのだ・・・。 自分は泣かせることしか、できなかったのに。 「さっきお前に言われたとおり、オレは車に集中したら周りが見えなくなるから あのままつき合ったとしても、きっと恭子を泣かせてた。 寂しい思いさせて・・・疲れさせると思ったから 終わりにした」 「・・・・」 秋の気配はすっかり消え、チラホラと雪の話題が出てくる季節。 しんとした空気がFDの静まりに拍車をかける。 ふと啓介が振り返り 「あいつ、好きな人でもできた?」 と、聞いてきたものだから 驚きのあまりキャベツを転がしそうになる。 「今も昔もお前だけだけど?」 と、ここでオレが言っていいものか。 とりあえず「さあ。何で?」なんてしらばっくれてみる。 どうも最近こういうのばかりだな・・・。 自業自得だけど、と自嘲気味に啓介が笑う。 「さっき、友達でいいよねって言われてさ。・・・これ以上入ってくるな、って境界線引かれたんだよな、きっと」 お・・・ おいおいおいおいおい・・・・・。 なんだそりゃ 啓介はほおづえをついたまま、FDの計器の方へ目線を落とすと 「いつの間に友達とか言われて満足できなくなっちまったんだろうな」 ぼそりと 小さくつぶやいていた。 ちょっと、腑に落ちない。 というか、イライラする。 延彦といい、恭子といい、啓介といい、友達友達と距離を置きたがる。 いや、啓介は「距離を置かれた」のか? 解決策は至極単純なはずなのに そんなことしてるから、取り返しつかなくなってるし、延彦・・・。 「あーもー、腹減った。飯喰ってこようぜ」 FD出して。と、キャベツをリアシートに移動させながら当たり前のように啓介に言う。 雪が降る前に、今年最後の走りをしようと言っていたのに どうも今日は走る気にならないな、と同じ事をぼんやりと考えていた。 |
畑違いですが、文章がんばってみました;;
啓介うじうじしてて笑える(いや、笑うところじゃない)
けどね、これから先もきっとこの「啓介の車バカ」(失礼)具合は問題になっていくと思うのね。
だから、ちゃんと向き合って欲しい。
そのうえで、受け入れて欲しいなあ、なーんて。
恭子頼みですかー?
肝心の恭子は目の前の糸に必死にしがみついている感じで、「友達」という糸でもいいから、この手を離したくないって必死で。
いやねぇ、アクセルかかるに決まってる(笑)
不器用。
本当に不器用な二人。
原作でのすれ違いっぷりも、鈍感っぷりも見事でした。
遠くで「啓介ー?それ大胆発言だよー?」とか「恭子ー?今告白されてるぞー?」とか言いたくなるよねー?(笑)
なのに肝心の二人はどうして気付かないの・・・!!!!Σ(゜□゜;)
顔赤くする啓介にいちいち「おま・・・っ、かわいい・・・っ!」と、未だ照れる甲乃でした。
↑でもアニメでカット。悔しい・・・!
[08/11/3/甲乃]
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