啓介にDVDを渡したあと、後ろでこんにちはー、とお辞儀をする恭子に気付く。 事情を聞いてキャベツを受け取るが、史浩からしてみれば、この状況をどう接したらいいものか、と悩む。 事情とはもちろん、豊作キャベツの事で。 「なぜ啓介がそれに参加しているのか」 これについては説明なしだから、おかしい。 それに気付いているのか、それともあえて説明しないのか・・・どっちなんだろう。 変につっつくと以前のような結果になりそうなので、ここは「温かく見守る」ことにしようか。 「ああ、そうだ。ちょうど良かった。ちょっと待ってて」 そう言って史浩は一度家の中に戻ると、少し大きめの袋を手渡した。 「お歳暮でたくさんもらったんだ。よかったら、どうぞ」 「わあ、ゼリーだ!あ、プリンも。こんなにたくさん、いいんですか?」 「もらってくれた方が助かるよ」 恭子のFDのリアシートにゼリーとプリンの詰め合わせが加わる。 「何か・・・物々交換だな」 言って啓介が笑う。 「あれ、啓介さんー?」 名前を呼ばれて振り返ると、声の主は啓介のFDメカニック担当だった。 「黒FDって・・・あ」 「あっ、久しぶりです。あの時はどうも御世話になりました」 例の『恭子のFDのパイプすっぽ抜け』事件から、面と向かってお礼を言っていない気がする。 元気良く頭を下げる恭子に気付いた彼も、ぺこりと頭を下げる。 「FDの調子はどう?」 「おかげさまで元気です」 「元気、ね」 くすり、と笑うと恭子がああそうだ、キャベツ、いかがですか?と唐突に話を展開させ、まるっと3玉渡す。 あげくに 「もっともらうか?」 と、ニヤニヤしながら啓介まで便乗してきた。 もしかしてこの調子でキャベツを配って回っているのだろうか・・・。 キャベツで支配されてしまった左手と、右手にあった小さな箱を眺めて「じゃあこれ、あげます」と右手の箱を差し出した。 キレイに粒のそろった真っ赤な苺。 こちらも頂き物だが、苦手だというのでありがたく頂戴し、FDのリアシートに追加された。 「・・・減ってんだか、増えてんだかわからなくなってきたぞ」 「苺って、この時期高いんだよー」 「あのな・・・」 キャベツはまだある。 時間もある。 「しゃあねーな、藤原にも持ってってやるか」 「と、いうわけで藤原、キャベツもらわねぇか」 「何がですか・・・」 もらいますけど。と言った後、後ろにいる恭子に気付く。 恭子がぺこりとあいさつするのを見て、拓海もどっかで見た顔だなぁ…と思いつつ お辞儀をす・・・ 「あ、豆腐もらいませんか?なぜか今日はさっぱり売れなくて…」 「「…」」 キャベツをレジの周りにゴロゴロと並べて、GSの愉快な仲間やら松本にでも配っとけ、と押し付けて出てきた。 FDのリアシートに豆腐・・・。 「…もう食いもんはもらうな…」 「そだね…」 ついでだ、あいつにも持ってってやるか、と啓介はハンドルを切った。 ピンポーン。 「はい。うわっ!」 キャベツが先か、啓介と一緒に現れた恭子が先か、どちらかに対しての驚きの声を出した。 「ケンタ、キャベツもらえ」 いきなりの訪問にあいさつもないばかりか命令形。 「こんなにいらないっすよ」 「カツの付け合わせとか、どうにかして使え」 「…キャベツがメインになっちゃうじゃないすか」 ぶーたれながらも、じゃあ二個だけ、と受け取った。 「そうだ、これ興味ありますかー?前の住人が置いてって・・・」 と、ドアの向こうから何やらごそごそと物を出そうとするケンタに、危険を察知して 「食い物はいらん」 と先手を打っておく。 「え、食用じゃないですよ」 「このサボテン」 |