『とうとう食べ物でもなくなった…!』




何でサボテン、と言いかけたとき、背後で「かわいい…」と恭子がつぶやいてしまったものだから、お持ち帰り決定になってしまったのだ。

「かわいー・・・こうやって増やしていくんだね」

まだ親指の爪程度の小さな丸いサボテンが6つ、平たいケースにフサフサと白い棘だか毛だかを生やして並んでいる。


 すっかり日も傾き、柔らかな日が恭子とサボテンを照らす。
昼に待ち合わせた高速付近の駐車場に啓介のFDは停めてある。
そこへと向かう間ずっと、恭子はナビシートで「かわいい」を連発しつつ眺めていた。



二人でこのFDに乗るのはあの日以来か


 居心地の良さについ、眠ってしまったあの日。
自分から食事に誘っといて、帰りに恭子のFDで爆睡。
何時間寝ていただろう・・・。
それに恭子もつき合わせてしまって。

あとあと考えてみれば、あれはムッとされてもおかしくないよな。


けれど


眠りに入ろうとする意識の中で、恭子がアクセルを緩めるのがわかった。




やさしく、そっと。




ああ、いいな…こういうの





そう思いながら眠りについた。




今日はゆっくり過ごすんだとか決めていたのに
なんだかんだで今日も移動大会

そのくせ不思議と心地よく



そして今、横には恭子がいて
嬉しそうにサボテンを眺めている。












・・・アクセルを少し緩めてみようか。




目的地はすぐそこ





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