「お留守番ありがとねー」
啓介のFDの隣に車を停めると、その「お留守番FD」に恭子が声を掛ける。


・・・いやだから、車に話かけるな・・・。


「いただきもの、半分啓介さんのFDに乗せるね」
「いーよ。全部持ってけ」
「んーでも・・・じゃあ、キャベツと一緒に『つぐみ』さんにあげてよ」

キャベツ配達に啓介さんつき合わせちゃって、今頃夕飯の準備して待ってるだろうから、おわび。と仕分けてゆく。


それを自分のFDによりかかりながら眺めていた啓介がふと

「サボテンも?」
と、聞いてきた。




・・・えっ?




「いや、一個でいいんだけど。そいつ、砂漠にあるみたいにでかくなるのかな」


「多分それとは種類違うと思うよ・・・」
「なんだ。部屋の角にどっしり据えるのも面白いとか思ったのに」



「「・・・・・・・・」」




今、恭子はオレが植物を育てている姿を想像しているに違いない。


この沈黙はきっとそうだ。


「ぷっ」
・・・ほれみろ。


「やっぱり一つもらう。見てろよ、そっちのより全然大きくしてやるから」
「一つでいいの?失敗したらリベンジできないよ?」
クスクス笑いながら、恭子は喜びを隠せない。





――――――――「啓介さんとおそろい」だ。





「じゃ、今度土曜会う時にでも、鉢分けして持ってくるね」
「あーそれと、いつでもいいからさ」





「そいつの育て方マニュアル、作ってきてくれねーか?」







心臓が、大きく跳ねる。







偶然会ったあの日。
こんな風になるなんて、思ってもみなかった。

本当にあのまま、ずっとお別れになるのだと思っていた。

「またね」と言ってさよならするのが、嬉しくて。


次の約束に繋がるのがこんなにも幸せで。


「お礼」だけだと自分に言い聞かせていながら、
携帯の電話番号を教えてもらえたことで、どこか期待していたんだと思う。


連絡がつくから、いつかまた会えるだろう、と。


また会ってもいい?


こんなたわいもない話、していい?


次の約束、楽しみにしてていい?


「またね」って、言っていい・・・?






手探りでつかむ、その先への約束。


まるで、綱渡りをしているようだ。




細い糸が切れないよう


そっと





そっとたぐり寄せる。


ちょっと驚いたような顔をして、「うん、責任重大だね」と恭子が笑うのを見て安堵した。



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